そうだ 京都、いこう

まだ夜が明けてない、外は少し冷える薄暗い空間の中、僕の中にこのフェーズが心地よい音楽と共に流れ始めた。
なんとなくこのフェーズが好きで、どこかに行きたいと思った次の瞬間頭によぎる。思いつきで偶発的なように思えるが、どこかしら一緒に行くよと力強さも感じる。
行き先は別に後で変えたっていいし、3語で僕の今の気持ちを素直に正直に、ずれなく表現していることが大切だから。
そういえば京都ってどのくらい行ってないだろう。仕事で行ったのが最後?いや、確かその後大阪に行った機会があって東京に帰る途中に京都駅前にイオンモールがあってお土産買ったような。
曖昧な記憶が頭をよぎるが、1つ1つバラバラなのですっきりしない。こういう時はどんなに頑張って過去の記憶を呼び起こそうとしてもなぜかうまくいかない事が多い。
ひょっとしたらもう一度京都に行けばこのバラバラだったものが1つにつながるかもしれない。よく過去の記憶は現地に行くと思いだして、つながるって事があるが、僕に同じ事が起こるのではないかと期待し始めた。つながったことで何かいいことが起こるとか期待はしていないが、ここまで来ると気持ちの問題だろう。
「みずな、あのさー今度の休みに・・・」壁を向いて寝ているみずなに話しかけたが、動きもなく静を保ったままだった。
「あ、そっか」と心の中で独り言を言ってしまったが、熟睡している彼女に何を言っても聞こえてないから、客観的に見れば大きな独り言を言っているのと同じだった。
初めてのことではないが、今日は少しはずかしい気持ちになった。仕方ない、起きたら話してみるか。そう思いながら、気持ちを切り替えようと僕はキッチンに向かいお湯を沸かした。
昨日一緒に買ってきたキャラメルティー、その甘い香りで起き出した彼女にキスをした。
僕が何を言いたいのかすぐに察したようで「いいよ」って突然言い出した。間髪入れずいやいや、まだ何も言ってないけどと声を出して言ってしまった。
「さっき京都がどうとか言ってたじゃん、どうせ一緒に行こうって事でしょ?」
理解しあっているうれしさ、だから大切な人と改めて思った。大切にするって言葉では簡単に表現できるけど、100%実行するのは本当に難しい。その事を彼女に言った時も100点じゃなくていいんだから、そう思ってくれるのがうれしいよ、って聞いた時の安堵感は今でも覚えている。自分に素直に正直に生きないと、自分で自分に言い聞かせた。
お茶を飲みながら、「京都いいよね、好き。 私も行きたいなって思ってたんだよね。あ、そうそう京都行ったらお土産何買う?私はね絶対あれ買う。定番だけど。色んな味あるあれ。なにか分かった?」相変わらず質問は直球なのだが、毎回答えにたどり着けるか不安になる。京都、お土産、定番、バリエーションのキーワードで頭をフル回転させるが、全く何も思い浮かばない。彼女は僕の顔をのぞきながらもうわかっているよね、という表情をしている。自分に焦りの表情が出ているのでは、と思ったがもう彼女の中からお土産の話は終わったようだ。
「あ、あとさ、行きたいとこある。知ってるかな?抹茶の濃さが選べるアイス?ジェラート屋さん。前にYouTubeで食べてる人のを見てからずっと食べたいなって思ってて。濃いの食べてみたくてさ。でも店舗行ったらまたそこで味選びに迷ってる未来が見えてるんだけど。優柔不断って困っちゃう。ていうかゆうなくん抹茶好きだっけ?私は抹茶好きだから京都の食べ物の誘惑に負けちゃうよ。」
そう、僕は抹茶があまり得意ではないのでもし抹茶出てきたらみずなにあげるねって話をしていた。今回は僕の記憶がつなごうと思ったのだが、もう既に彼女が楽しむプランに変わっている。
本来の目的を大きく変えて、2人で楽しもうってシフトさせる。それが僕にも心地よく、最初の目的はおまけでいいし、みずなと一緒の時間を過ごせる事が僕たちの大切なことだから。
朝から珍しくよく喋るみずな。普段もよく喋るが、特にワクワク楽しみな話題だと一段と喋りっぱなしってことを彼はもう知ってるのだろうか。