ビュッフェと旅行

ふっと目が覚めたので時計を見ると午前6時をさしていた。2人の中で他愛もない話をしていることが生活の1部になり、今日も午前3時くらいまで何を話したか覚えていないがとにかく話していた記憶はある。突然マリカー対決しよう、とか英語のサイト出してこれ読んで、とか。今月発売されたゲーム機も既に彼女所有のように、僕のものは私のもの状態のありさまだ。
明日、いやもう今日か、朝早いんだからそろそろ寝ようね、言っても不満げの表情をぶつけてくるのも慣れてきたが、今日はどこかしら楽しそうな表情が一瞬見えた。
「結局3時間くらいしか寝れてないな」かなりの寝不足なのは分かっているが日差しが出てくると起きてしまう。それとは反対に気持ちよさそうに寝ている彼女を見て、自分の方が繊細なんだな、とちょっと得意げになってしまった。
相変わらず壁の方を向いているので寝ているのか、起きているのかが全く分からない。恥ずかしがり屋とはいえ、ここまできっちり向きを固定しているのはある意味芸達者かもしれない。
普段はそっと起きるのだが今日に限ってがさっと布団を持ち上げてしまって起き上がってしまった。一瞬起こしてしまったのだろうか、と心臓の鼓動が高まったのを感じたが、静寂に包まれている状況から何もなかったようにぐっすり寝ていると判断ができた。
しゃべりすぎたのか、喉が渇いたので冷蔵庫からブドウジュースを取り出したが、なぜか蓋が開いてある。おかしいな、昨日飲まずに冷蔵庫に入れたのに。おそらく彼女も冷蔵庫の前で飲んでいいのか考えたかもしれないが、飲みたい欲求には勝てないだろうから何事もなかったように飲んだんだろう。1本しか買ってきてないから次は2本買っておいてね、の合図もあるんだなと僕は察した。
8時くらいにゆっくりと起きてきてまずは手を振り、その後「おはよう」と続く。起きたばかりだから同時進行はなく、あくまでみずなのペースだ。出会った当初は戸惑ったが慣れは怖いもので、むしろ最初におはようが来ると違和感を感じるくらいだから。
2人で簡単に出かける準備をして近くのココスに向かった。朝食バイキングでワッフルを焼くのは僕の役目で、「サンフランシスコで出張した時朝ご飯で食べてたんでしょ」と少し妬んだ言い方で、それ以降僕の役割になった。生クリームとチョコは普通でラズベリーを少し多めが彼女の好みでちょっとでも間違えるとむっとするが、2人で食べるとおいしいでしょと言ってきちんと食べてくれる。
パンコーナーのサーターアンダギーを見つけて「見て見て、やっぱり温めて食べた方がおいしいよね」と1個お皿にのせている。後で現地で食べれるのに、目の前にあると食べたくなるだろう。
みずなのテーブルには所狭しとお皿が並べられており、しかし料理の種類ごとにきれいにお皿に盛り付けられている。「私ってバイキング系の時はまずは1個しか取らないの。一通り食べたいって思っちゃうじゃない。その中で美味しかったの見つかるとテンションあがっておかわりしに行くの」と言いながら、みずなの中でメニューランキングができあがっているのだろう。みずなベスト3を当てるのは意外と簡単でみずなの表情を見ていれば大体予想は付く。「これって何位だと思う?」と聞かれるたびにわからないな、難しいなという表情しながら答えていく、そんな冷静な自分がちょっと意外だった。
今日のフライトが14時だ。既に荷物を車に積んであるので、すぐに出発できる。朝ご飯を終えて、帰宅し出発準備を整えた。8月終わりとは言え気温も高く、日差しが強い。僕は短パンに履き替え、彼女は水色のアッパと紺のスカートでコーディネイトして既に準備できていた。車に乗り込み首都高で空港に向かう途中、寝たりなかったのか彼女は寝ている。
空港まで渋滞もなく駐車場に停めて荷物を取り出した。自動バゲージクレームがあるから上級会員カウンターへ寄らず、そのまま保安検査場を通過しANAのラウンジに向かう。
ラウンジ内は混んでいるが席は十分あるので、外が見える席についた。「着くの何時?ドンキホーテで買い物するの?」と彼女が聞いてきた。石垣島にもドンキホーテができ、東京と変わらない便利さがあるのでリゾート感台無し、と思う人もいるが、僕はそのギャップが好きなのでいつも寄ってしまう。
「直行便だから17時30分くらい。ドンキ寄ってもいいけど、ゆず茶は買わないからね」それを聞いた彼女はそりゃそうでしょ、という表情をしながらへぇー、と答えた。今回はリゾートリゾートではなく、現地の生活を少しでも体験しようと自炊できるホテルを予約した。キッチンがついており、調理器具もレンタルしてくれる。ホテルの向かいにマックスバリューがあるので自分たちで食材を買って調理できる。小型炊飯器も持ってきたので、じゅーしー(沖縄の炊き込みご飯)も作れる。
みずなを楽しませるには豪華より、楽しそうをチョイスするようにしている。それだけじゃ物足りないかなと思い隠し球を用意してあって確かにスーパーで買い物できて便利だが島内には刺し身屋専門店があり、新鮮なお刺身が手頃価格で購入できる。日によって置いてある魚が違うので行ってみないとわからないドキドキ感と、絶対に外せないのが天ぷらだ。沖縄の天ぷらは東京と違って衣がサクッとではなく少し甘い厚めの衣だ。10個、20個と袋で売っているのだが、アーサーなどいろんな種類が入って面白い。現地ではおやつ感覚なのが東京と違って面白い。
お刺身と天ぷらを買って行けば自分たちの手作り海鮮丼が楽しめる。これは絶対に誰にも教えたくないがみずなにサプライズしてあげようと。夜ご飯何にするの?と聞かれてもどうしようかなといじわるで答えちゃうけど、こういうのなら許してくれると心の中で確信している。
飛行機は定刻通り羽田空港を南ぬ島石垣島空港に向けて離陸した。